家族の在宅介護上の負担と、その減らし方
1950年代までは日本人の8割が自宅で最期を迎えていたのに、今日では病院で亡くなる方が8割と、完全に逆転した状況になっています。
高齢社会白書(平成24年版)によると、『自宅で最期まで生活することが困難な理由』として「介護してくれる家族に負担がかかる」「症状が急変したときの対応に不安がある」の2つの回答が、突出して多かったとのことです。
また『自宅での療養を可能にする条件』として回答が最も多かったのは、「在宅介護・在宅医療サービスの充実」「家族の協力」「緊急時の連絡体制の整備」でした。
平成24年版高齢社会白書(概要版)(内閣府)
これを見ると「困難な理由」と「可能にする条件」が、ほぼ表裏の関係になっていることがわかります。
言い換えるなら、「困難な理由」をできるだけ排除すべく工夫することが、家族の在宅介護の負担を和らげることにつながるのではないでしょうか。
まずは「緊急時の連絡体制」を、きちんと作っておきましょう。
緊急通報システムはすでに全国で9割以上の自治体に普及しており、「緊急通報装置」を低額ないし無料で貸与してくれます。
数に限りがあるため申込制になりますが、市町村の福祉担当課や地域包括支援センターに相談してみましょう。
緊急通報装置の貸与 (千葉県佐倉市)
有料ではありますが、民間企業の提供する緊急通報サービスも、年々洗練されてきています。
ご自宅用・高齢者向け緊急通報システム (押すだけコール)(株式会社マザアス)
セコム・マイドクタープラス(高齢者見守りサービス)(セコム株式会社)
在宅介護を続けていけるかどうかの境目は、自分でどうにか「食事をとれるか」「トイレに行けるか」にあると言われます。
この2つが可能なら、周辺環境をできるだけ整え、本人の負担を軽くする視点から考えていきます。
たとえば専用の食事支援用具やサイドテーブルなどを揃えたり、あるいはトイレに行くまでの動線の整備・トイレの手すりの設置など、介護保険の福祉用具販売・レンタルを利用して選んでいきます。
一般的にはケアマネジャーを通じて、福祉用具専門相談員に相談することになるでしょう。
福祉用具(4)〔食事支援・自立支援用具〕。
福祉用具(6)〔腰掛便座・特殊尿器〕。
個人差はあるものの、要介護2くらいまでなら、介助を得ながら歩行が可能なケースも多くなります。
「老年症候群(生活不活発病)」を防ぐためにも、事前にやり方を医師とも相談した上で、毎日少しでもベッドから出て室内を歩く練習や、歩行杖や車いすを使った外出を工夫します。
時に友人と外で集まっての会食などが企画できるなら、相乗効果も得られてベターでしょう。
一方で「介護する家族の側」が、肉体的・精神的に疲れ切ってしまわないようにすることも、本当に大切なことです。
「介護に必要なパワーの分散」と割り切って、デイサービスや訪問介護などの介護保険サービスや自治体の独自サービス、さらには地域包括支援センターやNPO・ボランティア等の人手も含め、使える外部のマンパワーは全部使うくらいの心づもりでいるほうがよいでしょう。
「家族の話だから他人には相談できない」ではなく、「大切な家族のことだからこそ、他人の知恵や力も借りて対処する」のです。
国の介護保険や自治体の介護支援事業はそのために用意されているのですから、必要と判断したサービスは遠慮せずに、利用を申請すべきです。
在宅介護と介護保険のサービス~外部の力を上手に活用
とは言っても、当の本人は介護保険や介護サービスに無関心なことのほうが多いので、家族が日頃から情報収集のアンテナを立てておく必要があります。
本人が、外からのいろいろな人の出入りを嫌がるケースもあることでしょう。この場合は「住み慣れた自宅での生活を続けるためにどうしても必要なこと」として、辛抱強く説得を試みるべきです。
「認知症の周辺症状が進行し、本人がただ怒るだけで説得が難しい」といったケースでは、説得は確かに難しいかもしれません。
それでも在宅介護をあきらめる前に、医師や周囲の専門家、あるいは似たような境遇におかれている人に、まずは相談してみるべきです。
また同時に、介護する家族は、自分たちの息抜きや介護ストレス解消の時間を確保しておく必要があります。
デイサービス利用やヘルパー来訪時にできた自由時間を有効に活用して、気分転換をはかることが、結果的に在宅介護の質を高めることにもつながります。
在宅介護にのぞむ気持ちを楽にする、ちょっとした気づき(1)
デイサービス・デイケア・ショートステイ~概要と現状
国の介護保険や自治体・民間のサービスをできるだけ活用し、介護する家族に大きな負担がかからないよう工夫を続けることができるなら、例えひとり暮らしであっても、自宅を終の棲家にすることができるはずです。
ひとり暮らしの高齢者~心に寄り添う介護とは
もちろん決して生易しい道のりではありませんが、よく考えて少しずつ準備していくことによって、かなりのことが実現できるのもまた確かです。
家族だけの「閉じた在宅介護」ではなく、「外部のマンパワーを積極的に借りて、自分たちの負担をいかに分散していくか」を、いつも頭の片隅に置いておきましょう。
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