在宅介護のための住宅~生活動線と、要介護者本人の目線から
「在宅介護サービスを受けやすい環境づくり」という観点から住宅プランニングのポイントをまとめた、国土交通省の提案資料をご紹介します。
この資料は「戸建て住宅の新築・建替え」を主に想定していますが、資料内でも言及されているように既存の戸建てやマンション内でも、在宅介護に適した住環境づくりに関心のある方に参考になる点が、多々含まれています。
在宅サービスに対応した住宅を考えるヒント(案) (国土交通省 住宅局)
この国土交通省の提案資料では、
・要介護状態になっても、車椅子や介助者が必要になっても、自宅で住み続けたいと思う高齢者は多い
・したがって「在宅サービスに対応した住宅」の工夫が必要になるが、注意すべきは「高齢者の健康状態やライフステージ」が、時が経つにつれ変化していくこと。
本人の将来的な健康状態の変化に対応するべく、「高齢者が元気なうちから」在宅介護面での工夫を、あらかじめ住宅に組み込んでおくこと。
これらを前提とした「在宅サービスに対応した住宅」のポイントとして:
(1)在宅サービスを受けやすい(外部者が入りやすい・室内から外に出やすい)工夫
(2)本人の身体状況に配慮する工夫
(3)家族間のプライバシーを確保する工夫
の3つの方向から、様々な具体的対策とアイデアが掲載されています。
また配慮すべき視点として、「高齢者本人の家の主人としての誇り」および「地域(住民)との交流」を挙げています。
前者は「在宅介護のための合理性を求め過ぎない」こと、そして「本人がこれまで大切にしてきた生活スタイルを継承することの大切さ」を指摘しています。
後者では、「本人の自宅を、馴染みの地域住民が気軽に訪れやすくする工夫」にも配慮すべきとしています。以上が、この資料の大まかな流れとなっています。
長年住み慣れた自宅で過ごすことは、なんと言っても高齢者本人の体調と精神状態を、安定させる基盤になります。
上述の資料で具体的に提案されていることは、主に「食事・トイレ・外出および来客のための、生活動線の確保と効率化」に集約することができそうです。
たとえほんのちょっとした工夫であっても毎日の在宅介護ですから、家族の肉体的・精神的負担をトータルで考えれば、最終的な違いは大きなものになります。
また外からの入りやすさ(特に外部事業者の在宅サービス提供のしやすさ)、そして本人の外出のしやすさを工夫することは、「介助者の負担軽減」につながるのみならず、本人の運動・リハビリの観点からも必須です。
当然ながら動線をイメージするときは、まずは「今の自分の目線」ではなく、「要介護者本人の目線」に立つことが大切です。
車椅子を使っている場合は、自分の目線もその位置まで下げて検討してみる。
補助杖を使って歩いているなら、自分も使いながら不便な点を探していく。
その上に「介助をする側の視点」を加えていくことになります。
専用のノートを一冊用意して、気づいたことを書きとめながら行なうのがよいでしょう。
ただしやはり最優先すべきは「本人の目線」でしょう。
介護・介助をする側のやり易さを、本人の暮らしやすさの犠牲のもと成立させようとすることは、厳に慎まなければなりません。
上述の資料でも本人が「家の主人」としての誇りを持てることの大切が指摘されていますが、これは「一個の人間としての尊厳」と「プライバシー」の両面を含んでいます。
たとえ高齢の親が子供の家で暮らしている場合でも、「自分の部屋」において本人のプライバシーがきちんと保てるようにするにはどうしたらよいか、を考える必要があります。
その一方、適切な距離感も保ちつつ、100%の自立を保てない本人の悩みや孤独感に寄りそう気持ちも持つこともまた、大切です。
(介護技術の向上や居住環境の整備が、在宅介護の全てじゃない ご参照)
在宅介護に備えた本格的な家のリフォーム等を行なう場合は、介護保険制度の「住宅改修費の支給」を利用したり、福祉住環境コーディネーターや福祉用具専門相談員ら専門家のアドバイスを受けたいところです。
まずは、担当ケアマネジャー・地域包括支援センターへの相談から始めるとよいでしょう。
介護保険制度における住宅改修、利用にあたってのポイント
介護用品・介護機器・福祉用具とは。介護保険との関係。
「在宅サービスに対応した住宅」と言っても、それは必ずしもお金をたくさんかけた住宅の新築やリフォームを意味するものではありません。
ベッドの向きを変えるとか、新たに手すりをつけるとか、これまで気づかなかったちょっとした工夫を反映するだけでもずいぶんと違ってきます。
できるだけ想像力を駆使して、先々の変化に備えた対応を心がけたいものです。
もちろん想定と異なるケースに行き当たることも、多いかもしれません。
しかし、サービスを受ける「本人」そして「介護する家族・サービスを提供する外部者」の3者の視点と気持ちを大切にする姿勢を持って臨むなら、少なくとも後悔する結果にはならないでしょう。
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