褥瘡(じょくそう)と予防~施設より高い、在宅介護での発生率
介護中の高齢者は免疫機能が弱っていることから、さまざまな感染症にかかりやすくなっています。褥瘡(じょくそう)からの感染による発熱も、少なくありません。
在宅介護をする側としては、誤嚥性肺炎や室内での転倒、運動機能の低下による廃用症候群などと共に、褥瘡についての基本的な知識を持っておく必要があります。
褥瘡とは、身体の一部が持続的に圧迫され血行がさえぎられることで酸素や栄養が行き渡らなくなって、皮膚が虚血性の壊死を起こした状態のことです。
褥瘡はその深達度によって、いくつか専門的な分類が成されています。
発赤や水疱ができる初期の段階を通り越すと、脂肪層や筋肉・骨組織まで創傷が進行する、重度なステージへと移行します。
長期間寝たきりの人の1~2割に褥瘡が起きると言われ、在宅で介護する場合の発生率は、体位変換などのケアを継続的に受けられる病院や介護施設に比べ3倍近い、との報告もあります。
一般に高齢者の皮膚組織は、加齢による乾燥や紫外線による光老化などのため、ウィルスなど外部からの異物に対する抵抗力が衰えているだけでなく、症状の悪化が進みやすくなっています。
一見してわかるほどに褥瘡が悪化するまでには時間を要しますが、その一方で、症状が比較的早く生じやすいことも覚えておく必要があります。
たとえば、単純に寝返りができないために圧迫が持続して血流がとどこおり、皮膚の赤みが引かない状況(発赤)になったときは、すでに初期の褥瘡とされます。
褥瘡ができると痛みを感ずるだけでなく、皮膚組織の崩れから生じた滲出液によって体内から栄養素が流出し、低栄養状態を招きやすくなります。
さらに悪化した場合は、皮膚にとどまらず骨や関節に及ぶおそれもあり、局所感染による敗血症を引き起こすなど、最悪の場合は生死に関わるおそれもあります。
在宅介護中に一度褥瘡ができてしまうと、通院や訪問看護による治療にはそれなりの時間と費用がかかりますし、状況によっては完治が難しいケースもあります(ちなみに褥瘡の治療は医師法で定められた「医療行為」なので、外部の介護ヘルパーが行えない、医師や看護師が行うべき処置になります。ただし現在の法解釈上、「褥瘡のガーゼ交換」は医療行為から除かれています)。
背中など褥瘡ができた箇所によっては、日々自宅で介護する側もつい見逃してしまい、症状が進んでからはじめて気づくことも珍しくありません。
褥瘡がいったん悪化してしまうと、最終的な治療費がかなりかかる可能性も出てきますから、日頃から適切な予防を心がけたいものです。
褥瘡 皮膚科Q&A(社団法人日本皮膚科学会)
褥瘡の予防は、ベッドはおよそ2時間ごとの体位変換(ただし在宅介護の場合は2時間おきは厳しいケースも多いため、間隔をもう少し緩やかにしてもよいでしょう)、車椅子は約20分ごとのプッシュアップ(身体を浮き上がらせる動作)を行なうのが基本です。
これは圧迫により血流が阻害されて皮膚組織に酸素や栄養素が行き渡らなくなるまでの時間が、約2時間とされることによります。
保湿クリームなどによるスキンケア、夏や冬の高温の室内で汗をかいた時のこまめな着替えなども、有効な予防策になります。
褥瘡は、寝ている時に肌や骨がベッドに長時間当たりやすいところにできやすいのですが、本人が普段から好んでする姿勢や皮膚状態によってそのでき方やできる場所も、様々に異なります。
自力で体位変換ができなくなった要介護者のために、身体への体圧を分散させるベッド用のエアマットレスやウレタンマットレス・車椅子用のクッションなどの褥瘡予防のための福祉用具も販売・レンタルされています。
ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談し、それらの利用を検討してみるのもよいでしょう。
福祉用具・介護機器等のレンタル・販売と、福祉用具専門相談員。
皮膚状態の改善のためかかりつけの医師や、医療機関の栄養士にも相談し、食事の栄養面も見なおす必要があります。
低栄養が皮膚のむくみや血行不良につながり、褥瘡の遠因となっている場合もありますし、嚥下障害を起こしていて栄養が十分に摂取できていないケースも考えられるからです。
入浴は、原則として問題ないとされます。また適度なマッサージは褥瘡予防に有効ですが、皮膚が赤くなるなどの症状を起こしている部位はすでに血流の循環障害が起きているため、マッサージを行なってはいけません。
先に述べたとおり褥瘡の発生箇所やその症状は個人差が大きいため、褥瘡ができてしまった場合は訪問看護等を通じてすみやかに専門医に相談し、症状ができるだけ初期のうちに適切な治療を受けることが大事です。
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